Vol.2 アクティブデバイスモデル開発研究の現状

第17回 GaN HEMTエンハンスメント型デバイスの開発について(8)【最終回】

はじめに

前回はAlGaN/GaN Ridge HEMT特有のホール注入による過剰電流解析と,モデル化について言及しました.
今回は最後に,高周波特性モデルについて考えてみたいと思います.ここでは,主に等価回路モデルを作成します.その後,Sパラメータ測定データからHパラメータに変換して交流電流利得H21特性において,前回モデル化した“ホール注入による過剰電流” がどのように影響するかを解析します.

マクロ等価回路モデル

図1は第7回で言及したソース・フィールドプレート(SFP)を伴うGaN Ridge HEMTの簡易的な構造です.なお,ここでのSFP配置はわかりやすいように表しており,実際のプロセスに合っていません.

図1.ソース・フィールドプレートを追加した,GaN Ridge HEMTの構造例

SFPはソース端子の延長として結線されていますが,等価回路で表すと2次元電子ガス(2DEG)チャネルと接して,寄生トランジスタとなってしまいます.これを含みマクロ等価回路して記述すると図2ようになります [1].

図2.マクロ等価回路モデル

このSFPのゲート端子はGaN Ridge HEMTのソースと同電位になります.このサブトランジスタは以前(第7回の記事などで)解説したように,ドレイン電界を抑制するように動作します.

GaN Ridge HEMT部の等価回路モデル [2]

図2の交流等価回路は図3のようになります.

図3.GaN Ridge HEMT+SFPの等価回路モデル

Lg, Ld, Ls は各端子における,金属配線のインダクタンスです.CgsCgdのゲート容量は固定容量Cgs0Cgd0とバイアスに依存する容量成分に分けられます.Cds はドレイン・ソース容量です.Rcin,Rcは周波数分散抵抗で,Cgdisはゲート・ドレイン周波数分散容量です.また, ri はチャージング・レジスタンスとも呼ばれるゲート・ソース内部容量で,一般にはゲート・ソースに形成される空乏層の底面に存在すると言われています.Rg, Rd, Rs はゲート,ドレイン,ソースの各抵抗になります.Rgdはゲート・ドレイン抵抗です.SFPはドレイン・GND間に接続されているので,サイズに依存するゲート容量,Cgs_sfpCgd_sfp,はCdsと並列に存在します.ゲート注入によるPNダイオードの接合容量(C_junction)と拡散容量(C_diffusion)はゲート・ソース端子に存在し,ゲート・ソースの周波数分散容量としても働きます.
図3に示されているように(矢印のついたエレメント),多くの抵抗成分と容量成分はバイアス依存の非線形特性を示します.また,回路中のbとrfノードは周波数分散特性をコントロールするために使用されます.

周波数特性解析

今までに開発した,モデル式や今回の等価回路モデルをVerilog-Aを使用して作成しました.Sパラメータ測定を行い,モデルパラメータを抽出してシミュレーションデータと比較しました.高周波特性のバイアス依存性能を評価するため,前回紹介したホール注入による過剰電流特性を,Gm-Vgs特性にて図4に比較します.

図4.Ridge HEMTのGm-Vgs特性比較(ここでVdsは4 Vから40 Vまで2 Vステップで可変)

図4のグラフ中で,黒く囲まれた部分で過剰電流が流れていることがわかります.
次にSパラメータ測定とシミュレーションデータを,Hパラメータに変換してH21-周波数特性を図5に示しました.

図5. AC電流利得(H21)の測定とシミュレーション(ここで,Vgsは5Vに固定)

本測定データは,周波数50MHz以下で測定が不安定のため,最適化に使用するSパラメータ測定データの範囲によって,シミュレーション周波数特性の傾きが多少ずれていますが,最適なデータの選択によりさらに高精度のフィッティングが可能です.
Vds = 1Vでは,図4から予測されるように過剰電流が流れていないため,過剰電流モデルをオフの時,オンの時でシミュレーションが変化しません.ところが,Vdsを15V, 20Vに変化させた場合過剰電流が流れているため,過剰電流モデルがオンの場合では,測定データに近くなっていることがわかります.

まとめ

今回は今までに開発したモデル式と等価回路モデルを用いて,Ridge HEMTの高周波特性モデリングを行いました.Ridge HEMTの特徴と言える,ゲートホール注入による過剰電流特性の周波数特性への影響も見てみました.
これまでの記事では,詳細については解説できませんでしたので,毎回の参考文献を参照いただきたいと思います.

今まで連載してきました「アクティブデバイスモデル開発研究の現状」は,今回を持ちまして小休止とさせていただきます.
今まで読んでいただきましてありがとうございました.次の機会にまた,よろしくお願いします.

参考文献

  1. [1] H. Aoki, N. Kuroda, A. Yamaguchi, and K. Nakahara, “Temperature Characterizations of Multi-Unit and Multi-finger Dependencies on AlGaN/GaN Ridge HEMTs," 2022 IEEE 34th International Conference on Microelectronic Test Structures (ICMTS), (March 2022), Cleveland, OH, USA.
  2. [2] H. Aoki, H. Sakairi, N. Kuroda, A. Yamaguchi, and K. Nakahara, “Geometry Independent Hole Injection Current Model of GaN Ridge HEMTs," IEEE International Symposium of Industry Electronics (ISIE 2021), (June 2021), Kyoto, Japan.

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