Vol.2 アクティブデバイスモデル開発研究の現状

第3回 Verilog-Aによるコンパクトモデルの簡単な開発例

今回も、学生による修士論文のための研究として実施した実例です。
目的は、前回紹介した高耐圧用ディスクリート素子(DMOS[1]マクロモデルをVerilog-A言語を用いて、コンパクトモデルに作成することです。作成したモデルは第4回で測定データをもとにパラメータ抽出して検証します。

コンパクトモデル開発工程

コンパクトモデルの開発は以下のように進めていきます

  1. 開発したマクロモデルを元に、MOSFET部分のBSIM4モデルにVerilog-Aソースコードを使用し、PNダイオードのモデルパラメータと、モデル式と等価回路を新しく組み込む(今回)
  2. パラメータ抽出を実施し、BS170の電気特性の測定値に合わせこむ(第4回)

PNダイオードモデルの追加

通常のMOSFET構造用に作られたBSIM4のVerilog-Aソースコードに、図1のソース・ドレイン間PNダイオードモデルを追加し、DMOSの構造に対応させます [2]。

図1 BS170の保護ダイオード部分等価回路図

図2のように、PNダイオードのモデルパラメータを定義します。パラメータ名は元のダイオードモデルに使われているものに、SDを付加して命名しています。

図2 PNダイオードモデルのモデルパラメータ追加部分

図3のように、まずダイオードの電圧源と電流源を定義します。電流は流れ込むノードをアサインしています。

図3 PNダイオードの電圧、電流源の設定

次に、PNダイオードの電流式、容量式を定義します。図4において、各電流ノードに直接モデル式を入力しています。4440行では、電荷を時間で微分して電流ノードに追加しています。

図4 PNダイオードの電圧、電流計算と容量計算アルゴリズム

追加モデルの動作確認

図5は図1の等価回路の抵抗RSの値を変えることでPNダイオードモデルが動作しているか確認したものであり、抵抗に合わせてグラフの値が変化していることから、組み込んだPNダイオードモデルが正常に動作していることが分かります。

図5 PNダイオードモデル抵抗シミュレーション(a) 線形表示 (b) 片対数表示

まとめ

今回はDMOSのVerilog-Aコンパクトモデルを作成するため、BSIM4モデルにソース・ドレイン保護ダイオードを追加してみました。既存モデルを改造することで比較的簡単に開発が可能となりました。
なお、実際に改造を行って使用するためには、オリジナルソースコードの著作権に注意して、必要な手続きを行う必要があります。

参考文献

[1] BS-170 MOSFET、「BS-170データシート」、ON Semiconductor / Fairchild, 2011
[2] 八柄源、「修士論文:パワー半導体デバイスのモデリングに関する研究」、帝京平成大学 大学院 環境情報学研究科 2021年3月

(株)モーデックでは、Verilog-Aによるコンパクトモデルの開発に関する内容以外にも、モデリングに関する様々なご依頼をお受けいたしております。いつでもお気軽に問い合わせください。