はじめに
前回はAlGaN/GaN Ridge HEMT(GIT-HEMT)のデバイス構造と動作原理や特徴について解説しました.
今回はAlGaN/GaN Ridge HEMT(GIT-HEMT)のモデル化について,主にゲート部分のモデル,特にゲートリーク電流,ゲート容量,しきい値電圧を考えてみたいと思います.
ゲートリーク電流 [1]
図1.Ridge HEMTのデバイス構造
図1のRidge HEMT構造において,ゲート部のp-GaNと2次元電子ガス(2DEG)領域はPN接合になっています.また,ゲート金属のエネルギーレベルによって,ショットキー接合も存在する可能性があります.いずれにしてもゲート・ドレイン,ゲート・ソースには,逆バイアス時にダイオードリーク電流が流れます.これらは次の式で表せます.
(1)
ここで,IS = Leff∙Weff∙A∙T2となります.AはRichardson定数,ΦB はGaN/AlGaN システムのショットキーバリアの高さ, η はダイオードの理想ファクターです. Weff,とLeff 実効チャネル幅と長さです.
次にp-GaNと2DEGの間には,Poole-FrankelとFowler-Nordheim [2]によるゲートリーク電流が以下のように表せます.
(2)
ここで,Go は最小コンダクタンスでvt は熱しきい値電圧です. Geff とDeff ゲートとドレイン電圧の依存度を表す係数です.
トータルのゲートリーク電流は,IGD, S + Ioffで表せます.
図2に,作成したモデルのシミュレーションと測定の比較プロットを示します.
図2.Ids-Vgsの片ログプロット.ここでVds は 2 Vステップで4 Vから40 V まで変化させている.
ゲート・チャンネル容量 [3]
図3.Ridge HEMTのゲート部分拡大図.
図3を参照します.ショットキー接合とPN接合が存在するゲートにおいて,ホール注入がpタイプのゲートから2DEG領域に起こります.この部分について,ゲート容量を物理的に導出するのは困難なため,単位面積当たりのゲートチャネル容量は,実測により求めてこれをCchとしてドレイン電流導出に使用します.
しきい値電圧
Ridge HEMTはMOSFETなどと違って,しきい値電圧のゲートチャネル長依存は少なくなっています.これは2DEG領域のチャネル方向の長さがゲートチャネル長に比較して,はるかに長いことに起因します(図1参照).MOSFETのモデル式を応用して,Vth はVds= 0におけるしきい値電圧パラメータ(VTO)を元に記述します.
Vth は以下のように記述できます.
(3)
ここで,WDEPとLDEPはチャネル幅とチャネル長の依存度を表す係数です.
作成したしきい値電圧のモデル式の効果は,次回以降,ドレイン電流モデルの作成後に実測値との比較を行います.
まとめ
今回はAlGaN/GaN Ridge HEMT(GIT-HEMT)のゲート部分のモデル,特にゲートリーク電流,ゲート容量,しきい値電圧について言及しました.
次回はAlGaN/GaN Ridge HEMT(GIT-HEMT)のドレイン電流モデルを中心に考えてみたいと思います.
参考文献
- H. Aoki, H. Sakairi, N. Kuroda, Y. Nakamura, A. Yamaguchi, and K. Nakahara, “Transfer Characteristic of AlGaN/GaN Ridge HEMTs Used for Power Supply Circuits of Flexible Devices,” IEEE International Flexible Electronics Technology Conference (IFETC2019), (Aug. 11-14, 2019), Vancouver BC, Canada.
- Schroeder, D. Modelling of Interface Carrier Transport for Device Simulation, 1st ed., Springer, 1994.
- H. Aoki, H. Sakairi, N. Kuroda, A. Yamaguchi, and K. Nakahara, “Drain Current Characteristics of Enhancement Mode GaN HEMTs,” 2020 35th Annual IEEE Applied Power Electronics Conference & Exposition (APEC 2020), (March 15-19, Online), New Orleans, Louisiana, U.S.A.
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