Vol.2 アクティブデバイスモデル開発研究の現状

第14回 GaN HEMTエンハンスメント型デバイスの開発について(5)

はじめに

前回はAlGaN/GaN Ridge HEMT(GIT-HEMT)のデバイス構造と動作原理や特徴について解説しました.
今回はAlGaN/GaN Ridge HEMT(GIT-HEMT)のモデル化について,主にゲート部分のモデル,特にゲートリーク電流,ゲート容量,しきい値電圧を考えてみたいと思います.

ゲートリーク電流 [1]

図1.Ridge HEMTのデバイス構造

図1のRidge HEMT構造において,ゲート部のp-GaNと2次元電子ガス(2DEG)領域はPN接合になっています.また,ゲート金属のエネルギーレベルによって,ショットキー接合も存在する可能性があります.いずれにしてもゲート・ドレイン,ゲート・ソースには,逆バイアス時にダイオードリーク電流が流れます.これらは次の式で表せます.

 (1)

ここで,IS = Leff∙Weff∙A∙T2となります.AはRichardson定数,ΦB はGaN/AlGaN システムのショットキーバリアの高さ, η はダイオードの理想ファクターです. Weff,とLeff 実効チャネル幅と長さです.
次にp-GaNと2DEGの間には,Poole-FrankelとFowler-Nordheim [2]によるゲートリーク電流が以下のように表せます.

 (2)

ここで,Go は最小コンダクタンスでvt は熱しきい値電圧です. GeffDeff ゲートとドレイン電圧の依存度を表す係数です.
トータルのゲートリーク電流は,IGD, S + Ioffで表せます.
図2に,作成したモデルのシミュレーションと測定の比較プロットを示します.

図2.Ids-Vgsの片ログプロット.ここでVds は 2 Vステップで4 Vから40 V まで変化させている.

ゲート・チャンネル容量 [3]

図3.Ridge HEMTのゲート部分拡大図.

図3を参照します.ショットキー接合とPN接合が存在するゲートにおいて,ホール注入がpタイプのゲートから2DEG領域に起こります.この部分について,ゲート容量を物理的に導出するのは困難なため,単位面積当たりのゲートチャネル容量は,実測により求めてこれをCchとしてドレイン電流導出に使用します.

しきい値電圧

Ridge HEMTはMOSFETなどと違って,しきい値電圧のゲートチャネル長依存は少なくなっています.これは2DEG領域のチャネル方向の長さがゲートチャネル長に比較して,はるかに長いことに起因します(図1参照).MOSFETのモデル式を応用して,VthVds= 0におけるしきい値電圧パラメータ(VTO)を元に記述します.
Vth は以下のように記述できます.

 (3)

ここで,WDEPとLDEPはチャネル幅とチャネル長の依存度を表す係数です.
作成したしきい値電圧のモデル式の効果は,次回以降,ドレイン電流モデルの作成後に実測値との比較を行います.

まとめ

今回はAlGaN/GaN Ridge HEMT(GIT-HEMT)のゲート部分のモデル,特にゲートリーク電流,ゲート容量,しきい値電圧について言及しました.
次回はAlGaN/GaN Ridge HEMT(GIT-HEMT)のドレイン電流モデルを中心に考えてみたいと思います.

参考文献

  1. H. Aoki, H. Sakairi, N. Kuroda, Y. Nakamura, A. Yamaguchi, and K. Nakahara, “Transfer Characteristic of AlGaN/GaN Ridge HEMTs Used for Power Supply Circuits of Flexible Devices,” IEEE International Flexible Electronics Technology Conference (IFETC2019), (Aug. 11-14, 2019), Vancouver BC, Canada.
  2. Schroeder, D. Modelling of Interface Carrier Transport for Device Simulation, 1st ed., Springer, 1994.
  3. H. Aoki, H. Sakairi, N. Kuroda, A. Yamaguchi, and K. Nakahara, “Drain Current Characteristics of Enhancement Mode GaN HEMTs,” 2020 35th Annual IEEE Applied Power Electronics Conference & Exposition (APEC 2020), (March 15-19, Online), New Orleans, Louisiana, U.S.A.

(株)モーデックでは,高度なVerilog-Aを含むコンパクトモデル開発,測定,パラメータ抽出システム開発などの実務以外に,IEEEをはじめとする学会の英文論文誌投稿,国際学会発表のための投稿論文作成のお手伝いなども行っております.
モデリングに関する様々なご依頼をお受けいたしております.いつでもお気軽に問い合わせください.