Vol.3 電気設計とシミュレーションのSDGsな関係

第13回 波形検証の意味について

波形検証の目的を考える

さて、シミュレーションを利用して波形を検証するという意味について、考えてみようと思います。現物から情報(ここでは波形)を取得する場合と同様に、波形をなんとなく眺めていたら良い話を聞かせてくれるわけではありませんね。目的を持って、動作条件を設定し、必要なポイントの波形を取得しなければ、目的を検証することはできません。デバイスとしてダイオード例に考えていきます。

図1 ダイオード

まず、私たちはデバイスに対する何を検証するのかを整理します。今回は『熱』をお題にしていますので、ダイオードの発熱を評価するための波形検証の流れを考えてみます。『熱』は回路に流れる電流とデバイスの電流経路抵抗分により生じる損失でしたね。ダイオードを等価回路で捉えてみると、図2のようになります。

図2 ダイオードの等価回路

ダイオードの内部等価抵抗で損失する電力が『熱』と等価と考えると、電流と内部抵抗値が判明すれば損失電力が計算できそうです。動作中の内部抵抗は観測が難しそうですが、代わりにダイオードによる電圧降下分が判明すれば電力を計算できるであろうことも想像できます。

ダイオードの電力損失 W=Vf × Id

何を判断するのか

ところでシミュレーションで波形を解析し、ダイオードの電力損失が計算できたとして、何を判断したいのか。
判断したいこと

回路の設計条件で動作させたときにデバイスが故障しないか

とします
半導体の場合、動作条件下のジャンクション温度が保証値以下であることが故障させないための制約事項になります。

図3 ジャンクション

ジャンクション温度は以下の計算式で求めることができます

Tj:ジャンクション温度
Ta:周囲温度
Rth(j-a):ジャンクションー雰囲気の熱抵抗
P :損失電力

図4 ジャンクション温度の計算式

言い換えると、動作条件を変えることで、ジャンクション温度に余裕を持たせる(ディレーティングする)ことができます。波形を解析することは、回路設計やデバイス選定の確からしさの検証を行ったり、商品の寿命予測を行うことにつながります。

発熱するということ

電力損失する=熱の発生と論じてきました。熱が生じるとは損失することですので、回路の入力電力に対して、出力電力は電力損失分少なくなります。同じ仕事をさせながら発熱量を下げること、つまり商品の省エネルギー化(入力電力の仕事量を100%に近づける)は、地球温暖化にまで論じられる昨今です。デバイスを故障させない設計は当然ですが、発熱を最小にすることが地球レベルの貢献につながると考えると、なんだかやりがいを感じませんか。波形検証を行い、適切な設計、適切なデバイスの選定行う。シミュレーションでこれらの検証を高速で正確に実行していくことが1分1秒を争う地球温暖化対策に貢献できる・・少し壮大な物言いですが、設計者ならではのモチベーションアップにつながるように思います。
次回は、シミュレーションに必要なデバイスモデルについて考えてみます。
最後までお読みいただきありがとうございました。