Vol.3 電気設計とシミュレーションのSDGsな関係

第12回 『熱』と波形検証について

損失電力を計算する

熱設計というと、まず電流経路の損失を計算することになります。
設計計算は印加電圧と電流制限抵抗分から電流値を計算し、電力を算出したいデバイスの電流経路抵抗値と電流値で損失電力を計算します。
回路の印加電圧が変化のない直流電圧の場合は一定値なので、平均電力計算は単純化されます。一方、印加電圧がパルス電圧の場合は、パルスのデューティー比で平均電力損失は緩和されます。

抵抗Rの平均電力損失WR=I2×R×t/T

図1 電力損失計算例

事例に示した回路では、トランジスタをパルス駆動して、LEDに流れる電流を制御しています。回路に流れる電流もパルス状となりLEDの平均輝度も低下します。
デバイスの最大定格に対するディレーティングを考える場合は、最大損失との比較になるため、パルス電圧印加であっても瞬時最大電圧から計算しますが、飽和温度(長期時間でみた熱)を考える場合はデューティー比で計算します。目的に応じ計算方法が変わることに注意が必要です。

波形の検証

このように、何を評価するかによって、回路に印加される電圧波形を検証しておく事が肝要です。
自分で設計しているのだから、あえて検証が必要か・・といった声も出そうです。
設計は、まず設計条件でインプットとアウトプットを設定します。このイン/アウト仕様に基づいて設計計算することから、当然インプットが直流かパルスなのかは最初からわかっていることですね。
商品設計では、種々の機能を実現するための回路を個別に設計して組み合わせます。このときに個別回路の設計条件どおりのインプットになるかの検証は、熱設計だけでなく商品として成立する全体回路になっているかという観点では必要な事だと思います。
電力損失に話を戻すと、パルス印加の場合でも、デューティー比が50%なのか30%なのかでは平均電力が異なります。インプット波形の検証方法はいくつかあります。

  1. 組み合わせ回路の設計仕様を確認する
  2. 実測する
  3. シミュレーションによる波形解析する

本題はシミュレーションですので、3のシミュレーションによる波形検証について考えていきます。

何を目的とするか

さて、シミュレーションを導入すると一言で言っても、シミュレーターのライセンス費用や、誰が実行するのか、対投資効果を何で測るかなど組織には一定のハードルがあります。
物わかりの良い上司がいても、組織の決裁を通していくのはなかなか難しいのが現状かもしれません。
本コラムの出だしでもDXは何を目的にするのかが大事と記したように、シミュレーションもその(経営的)目的を明らかにすることが大事です。技術的な課題解決と経営課題解決の両面でのロジックを形成するのは結構難解(わたしも実は苦手)ですが、開発の経営課題に立ち戻り、シミュレーションの利点をどのように生かすのかを考える事は、単に波形検証をすることに留まらず、データを何に発展させるのかといった次のステップアップにつなげることだと思います。
次回は、シミュレーションによる波形検証ついて具体的な事例を見ていきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。