Vol.3 電気設計とシミュレーションのSDGsな関係

第6回 シミュレーションでできることとできないこと

シミュレーションの現実世界

テレビの天気予報で放映される雨雲の動きや、なんとか研究所が発表した海底火山から放出された軽石が海を漂って拡散していく様などシミュレーションデータの解析画像は良くわかりますし、様々な可能性を示唆しています。

図1 データ可視化の画像例 出典:NHKニュース

ところで、私たちはシミュレーションの実行結果であるデータそのものではなく、データを解析し見る人がわかりやすい様に画像処理を行ったり、理論と知見を持って解析・解釈した結果や解説を聞いている事に気づいているでしょうか。
ここが、シミュレーションという魔法の言葉に陥りやすい部分では無いかと思います。
現実世界の現象を忠実に再現するための①条件やデータ・モデルの準備、②シミュレーションを実施した結果、得られたデータの解析、③理論的な解釈、現実世界の現象への適用といった手順を経た結果であり、シミュレーションツールのボタンを押したら3時間後の雨雲の状態による影響(どこかの地点にどの程度雨が降るなど)が自動的に現れるわけではありません。
このギャップが、期待と挫折の繰り返しになる原因ではないかと感じます。(期待を持って高額のシミュレーターに投資したが、活用できずにお蔵入りし、ただ償却を待つばかりみたいな)

シミュレーションできることできないこと

改めて、何ができて何ができないのかについて考えてみます。
シミュレーターツールはいろいろなベンダーが世に出しています。多くの場合、得意技があり流体や構造変位、熱、電磁界など理論ごとのシミュレーションエンジンを装備しています。中には複数の技を実行できたり、データ交換ができたり、高い処理能力(スピードや精度)を持つツールもあります。
電気系での活用を前提にすると、回路波形、熱、電磁界が主でしょうか。
Spice系などの波形解析を例に挙げてみると、回路における各ポイントの波形を生成することができます。
これがいわゆる『できること』ですが、商品仕様を実現する回路を完成させる上で、設計者がやらねばならないことがいくつかあります。

  1. 設計目論見通りの波形かどうかの検証
  2. 設計目論見通りの部品ディレーティングができているかの検証
  3. 設計目論見通りのばらつき設計ができているかどうかの検証
  4. 外乱などに対する、耐性が得られているかの検証
  5. 設計目論見通りの発熱以下であるかの検証 などなど

図2 波形解析例

これらは、様々な角度から実測波形やデータを測定し、検証することになります。一方、実測やシミュレーションで得られた波形の画像だけでは判断がつかないことも多くあります。そのため実測データや、シミュレーションデータを組み合わせることで目的の結果(これもデータ)を取得することも行われます。しかし、データに対する理論的解釈をシミュレーターは行ってくれません。
このように、一工夫や最後の判定・解釈といった知見や理論を基にした結論をだすことは、現時点では十分できないことといえるでしょう。(近い将来AI技術の進化とともにここでいうできないことは何も無い時代になるかもしれません)

シミュレーションと都市伝説

さて、『なんか話が違う』『バラ色の世界が見えない』と少しがっかりしませんでしたか?
ボタン一つで誰でもわかるような結果、結論が見えるものではないのは確かですが、全てをネガティブに捉えるのは少し早いです。
何かの開発に関わった方は、先輩からいろいろなことを教わりながら経験を積んでいく過程があります。例えば、外乱による誤動作を対策しなければならないという課題において、『主電流が流れるパターンからのノイズ輻射が原因』のように解説され、見えないノイズを相手にしたことはありませんか?
見えない相手なので、頭のなかでノイズの魔の手を想像しながら、また、ひ弱そうなマイコンの入力ポートを透視しながら対策を考え、きったはったしましたよね。そして、この経験は都市伝説と化し、自分が後輩に伝えていくことになります。
シミュレーションは、この見えない魔の手を見る(可視化する)ことができます。

なんだか、楽しくなってきませんか?次回は、可視化について考えてみようと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。