Vol.3 電気設計とシミュレーションのSDGsな関係

第9回 電気設計をシミュレーションする

電気設計の手順について

電気設計のうち回路設計時点におけるシミュレーションを考えてみます。
回路設計という設計行為はそもそも何をすることなのか
入力/出力仕様を実現する電気回路を設計する
一言でいうとこのようになりますでしょうか。
回路設計行為を分解してみると、一般的に以下の様になるかと思います。
① 入力信号を受ける回路を構成する
② ①の構成デバイス仕様を決定する
③ デバイスを(仮)選定する
④ 設計計算し、構成回路の定数の決定とデバイスの決定
⑤ 出力仕様を実現する回路を構成する
⑥ ②~④に同じ
⑦ 回路の挙動条件がある場合は条件入力あるいは変換回路を構成する
⑧ ②~④に同じ
⑨ 仕様を実現する基本構成にEMC設計を加える
また、設計の視点としては次の二点が重要なことは言うまでもありません。

  1. 入力/出力の関係がロジカルに成立する(回路動作が意図通りになる)
  2. 回路動作電圧、電流がデバイスの仕様範囲である

これらは、ロジック設計と設計計算によって設計根拠としますが、計算通りに動作するかは回路設計時点では確かめられておらず、試作を行い実動作の検証をすることで完了します。

シミュレーションの出番

これらの設計手順は従来から行われており、手順自体には問題があるわけではありません。
問題になり得るのは、これらの手順を踏む時間短縮の必然が起きたときや設計者スキルによりその深さに差異が起きうるといった懸念がある場合ではないでしょうか。
私たちは、これまで試作(現物)検証を重要視してきました。回路定数の決定は机上の設計計算でできますが、デバイスの静特性(仕様書に記載されている仕様)で計算するため挙動までは検証することができません。特に電位変動などの変化に対する過渡応答の挙動はなおさらです。これらの挙動を検証するには現物を動かしてみることが確実で、先輩より『現場現物』が大事と教えられてきました。一方、現物検証が故の課題は、思い通りに動作しなかったときの対策が、ついキッタハッタになりがちということと、再現性やばらつきに対する検証ではないかと思います。
一方、シミュレーションのいいところは、現物を必要としないことです。加えて、再現性の良さや設定により回路定数などの変更が比較的簡単なことだと思います。

  • 回路動作検証:動作波形
  • デバイス検証:デバイスへの印加電圧・電流

と置き換えてみれば設計の確からしさを検証するシミュレーションの視点を捉える事ができそうです。

設計の確からしさに悩む

 設計完成度という言葉があります。
 文字通り、設計仕様通りに完成しているかの程度のことです。設計計算や検証結果を持って所定の基準を満たしていれば100%完成したと言えるでしょう。
 試験方法や判断基準が規定されているイミュニティ試験などは判断が明確ですが、設計ロジックや計算結果の完成度はどうでしょうか。設計仕様や設計計算、ロジックは設計者の思考結果ですので、定められた手順や判断基準は明確ではありません。この時、設計の『確からしさ』を証明することは設計者のスキルに依存するところが大きいかもしれません。
 筆者が直接商品開発に従事していた頃も、この確からしさを設計計算やデータの検証によりレポートするのには苦労していました。
 今考えると、デバイスの動特性による過渡現象やEMC挙動で解釈できるのですが、特に経験の浅い時期は上司の突っ込みになかなか応えられなかったものです。
 シミュレーションはこの設計の確からしさをロジカルに表現できるツールにもなるかもしれません。
次回は、設計の確からしさとして指標の一つであるデバイスの熱設計とシミュレーションの関係について考えていきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。