Vol.3 電気設計とシミュレーションのSDGsな関係

第2回 開発現場のディジタル化は経営戦略になるのか

はじめに

まず初めに、コラムの題名について説明いたします。
私たち電気設計者が設計する商品やシステムは、SDGs宣言のいずれをも支えるモノであることは読者の皆様もご承知の通り。その上で、このコラムは、変化する世界情勢や人、環境にあって電気設計を持続し続ける手段としてシミュレーションを論じてみようという意図で執筆いたします。

経営者側の悩みってなんだろう

商品開発現場の立ち位置から、企業経営(者)の悩みを考えて(想像して)みましょう。
最初にお断りしておきますが、以下に述べることは、あくまでも筆者の主観に基づくものであり、本気でアプローチしようと思う方は、経営層に直接確認されることをおすすめします。
さて、Webなどによると、会社を経営するとは『新しい顧客を創造し、かつ利益を拡大し続けること』との記述があります。つまり、開発現場においては、新たな(売れる)商品を開発し続け、しかも大きな費用を使ってでもなお利益を拡大するためにコスト最適化設計も求められます。


図1経営の求めるもの

開発現場においては、往々にして実現不可能(と思われる)な仕様や日程であっても、企画、開発、製造などの各部門間における調整や協議がなされ、やがて実現可能な状態に収束していきます。しかしながら、このようなプロセスは、従来と同じリソース、同等の投資レベル(プロセス)で商品を開発するものであり、新たな技術開発が次から次へと先行して為されていかなければ、かなり困難であることは明白です。
経営者側が掲げる「最小投資で最大利益」という経営目標は、上記のような悩ましいジレンマを抱えていると言えるかもしれません。

経営におけるディジタル化の効果

経営の課題(悩み)は、言い換えると最小のリソースで最大の効果を上げ続けること、といえると思います。つまり、労働生産性を最大限に上げ続けることが重要なポイントになってきます。こうなると世界の中でも日本のGDP(国内総生産)はなぜ低いのかといった、どこかで聞いたような話に及びがちですが、GDPについては別の機会にでも考えてみることにしまして、今回は、開発の労働生産性について考えてみたと思います。労働生産性の一般的な定義は下記の通り、インプットとアウトプットの比になります。


図2 労働生産性の定義

開発現場で考えてみると、アウトプットは一定の開発期間における生産量=開発機種数、インプットは担当する設計者数×労働時間となるでしょうか。労働生産性を上げるには、単純にはアウトプットを増やすか、インプットを減らすということになります。
年間に発売(開発)する新商品を従来の二倍、三倍にするというのも手ですが、製造効率や、材料、金型投資などを考慮すると、少量多品種生産は、特に多くのお客様がお使いになる家電では割に合わないことが多く、インプットをいかに減らすかが鍵となりそうです。
ここで、最近はやりのDXとか、ディジタル化が登場します。『いろいろなコンサルも報道機関もDXやディジタル化はいいと言っているし、よくわからないけどいいらしいので、我が社もDXやるぞー』となる気持ちはわからなくはありませんね。

DXの落とし穴

第一話でも出てきましたが、経済産業省のDXレポートによると、DX推進に欠けている一番は『ディジタル化のビジョンと戦略』と記述があります。
ディジタル化が生産性向上になる(と、よく記事になっている)からといって、ビジョン無くしてはなにをディジタル化し、従来の仕事の仕方をどうすれば労働生産性を向上することができるのか・・が見えてきません。ディジタル化は手段でしかなく経営戦略とビジョンそして、開発(部門)のボトルネックの明確化とあるべき姿(目的)を描くことが必要になってきます。
ビジョンなくしては、目的に適合したディジタル化と変革を得られません。そして、決算してみると、ただそこには使われていないシステムだけがあり経営の目的である利益=労働生産性の向上は机上の空論にしかなっていない現実に気づくことになるかもしれません。
さらには、このシステムが開発現場の足かせとなり逆に労働生産性を低下させるレガシーシステムになり得る危険性を持っていることに気づけない不幸が待っている可能性があります。

ディジタル化を味方に付ける

では、どうすればいいのか。経営側にはいいことしか伝わりにくい(現場からもネガティブ報告はあまりしない)ため、現場を良く知ってビジョンを立てることが必要だと思います。


図3 経営ビジョンに即したディジタルシフト

市場の捉えかた、商品の企画から開発のプロセス、材料の調達、製造から販売までのプロセスを鳥瞰し、経営目標に向け、組織からシステム、人財にいたるまでのあらゆる視点でボトルネックを見極める。そして手段としてのディジタルを駆使し、プロセスのトランスフォーメーションを推進する戦略をたてていくということが肝要だと思います。

次回は、ディジタル化が開発現場にもたらす変化について考えてみたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。