Vol.3 電気設計とシミュレーションのSDGsな関係

第5回 DXはシミュレーションか

卵が先か、鶏が先か

第4話では、シミュレーションの世界が様々な可能性を描けることを紹介しました。ところで、そもそもはDX:ディジタルトランスフォーメーションのお話から始まっています。ディジタルデータの利用法の一つであるシミュレーションでトランスフォーメーションができるのか、について考えてみます。そうですね、最初に言及したように、手段から入ると目的を見失ってしまいます。
シミュレーション部門がすでに存在する場合は、一度目的に立ち戻り(日々の課題解決だけではなくシミュレーションによりどうなりたいのか)、これからシミュレーションしなきゃと思われている方や、なんとなく格好良さそうと思われている方は、現状からどのように変わりたいのか、それはなぜなのかを考える必要があると思います。
もちろん、ビジョン⇒目的⇒ボトルネック⇒手段⇒シミュレーションと正攻法でたどり着いたなら信念を持って取りかかればいいと思います。
ひとつの結論として言えることは、シミュレーションはディジタルの世界で活用できるツールです。一方、ビジョンと目的を持って、手段としてシミュレーションを選択し、変革に向かっていなければ、シミュレーションによりトランスフォーメンションするとは言えないと思います。

どこに着目するか

とはいうものの、すでに取りかかっているまたは、活用域にあるシミュレーションをさらに活用し、トランスフォーメーションを実現し経営貢献できればそれに越したことはありません。
一方、これからという場合はビジョン達成に向け、開発プロセスのボトルネックを変革するシミュレーションを【もの】にしていくことが必要です。
いずれにしてもシミュレーションを手段にして、トランスフォーメーションするには   どのようにトランスフォーメーションしたいか(課題解決したいか)が鍵となりそうです。
開発部門の実務は、企画を設計仕様に落とし込み、品質・安全設計、コスト設計を含めて完成度を上げ、製造部門へ図面やデータで引き継いでいくことです。

図1 開発の流れ事例

図1は一般的な開発プロセスのタイムテーブル事例です。トランスフォーメーションの目的を開発期間短縮とした場合、着目点は様々ですが図1において、2次試作が無くなれば3ヶ月が短縮可能と見えます。2次試作をなくすには、そもそも、2次試作をしなければならない原因を排除しなければなりません。

固定観念からの脱却

図2 設計の一区間業務例

図2は一回の設計・試作で設計者が何をしているかを簡易的に表現したものです。図2において2次試作はなぜ必要なのか。図に書かれている『様々なことを実施しなくてはならないから』と思い込んでいないでしょうか。試作の目的は次に待っている、実験評価などを実施するために現物が必要だからですが、再度試作して実験をしなければならない原因はその前のステージで設計が完成していないからと考えられます。ここでも3回の設計・試作・評価を経て設計を完成させるものと思い込んでいませんか?実験しなければならないから当然試作した現物が必要だと思い込んでいませんか。
EMC試験をシミュレーションにより効率化するという手段からの発想では現物実験の一部がシミュレーションで置き換わるだけで、試作そのものの原因を排除するという変革には至らないかもしれません。
試作しなければならない原因を排除するには、一つ以上前のステージで課題を解決あるいは発生させない設計をすることが要点だと思います。変更が発生した場合、シミュレーションにより変化点による性能変化を数値で押さえ、理論的に解釈しておくことが一つの解決策と考えています。
現物実験からシミュレーションによる仮想実験に置き換え、得られたデータ・結論を設計の変化による性能評価の根拠とするには、シミュレーションの考え方や精度、品質保証に対する信憑性(現物実験データとの相関)などハードルは決して低くはありませんが、開発の方法・手段、品質保証の考え方など、プロセス全体を鳥瞰して、トランスフォーメーションしていくことこそDXの意義では無いかと思います。

次回はシミュレーションでできることとできないことについて考えてみたと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。