Vol.1 回路シミュレーションの完全マップ

第3回 2種類のSPICEモデル:オンウエハ・モデルとオンボード・モデル

 

『SPICEモデル』と聞くと、あなたは何を思い浮かべますか?

あなたがアナログのCMOS回路設計者であれば、NMOS/PMOSトランジスタのモデルだと考えるかもしれません。もしあなたが、アナログのシステム回路設計者であれば、IC部品のモデルを想像されるかもしれません。これはどちらも正解です。ユーザーがCMOS回路設計者かシステム設計者によって、この言葉から連想される『SPICEモデル』は異なるかと思います。

ここでは、SPICEモデルの種類について詳しく解説していきたいと思います。

 

2種類のSPICEモデル:オンウエハ・モデルとオンボード・モデル

 

回路シミュレーションを実行する上で必要不可欠なのが、『SPICEモデル』になります。『SPICEモデル』は、半導体素子を表現するモデルから、抵抗・コンデンサ・インダクタ素子を表現するモデルおよびIC部品を表現するモデルなど多数存在しています。これらの様々なモデルを総称して『SPICEモデル』と呼んでいます。多種多様なSPICEモデルが存在しますが、これらは大きく分けて2つに分けることができます。SPICEモデルについて解説していきます。

 

オンウエハ・モデルとは?

 

始めに、「オンウエハ・モデル」について具体的に説明します。半導体回路設計者であれば、「PDK (Process Design Kit)に含まれるSPICEモデル」という表現の方がわかりやすいかもしれませんが、モーデックでは、「ICチップ(パッケージの中の回路)を設計する際に必要なSPICEモデル」を「オンウエハ・モデル」と定義しています。

 

オンウエハモデルは、SPICEモデルの中では格段に高度な技術で作成されるモデルです。オンウェハモデル作成では、物性・電気電子・数学・統計・ソフトウェア・測定技術・高周波回路技術など、非常に多岐に渡る技術が必要になります。まず、対象となる半導体素子を様々な条件において測定を行い、素子の正確な性能を取得します。高周波特性の測定においては、計測器の針(プローブ)自体が、素子に対しての寄生成分(本来の素子外の特性)となって認識されてしまうため、その余分な成分を取り除く技術力も必要になります。そして、このような高度な測定技術を駆使して取得した測定データを基にして、SPICEモデル表現に落とし込んでいく一連の流れがモデル作成のプロセスです。

 

更に、デバイスの微細化に伴い、半導体素子1つの中で生じる物理的な挙動がますます複雑となってきています。例えば、あるプロセス世代では無視できていた電気的挙動が、次の世代では無視できず、その挙動を正しくデバイスモデルの動作として組み込むなどの複雑なモデリングが必要になります。このような難しいケースであっても、高精度オンウェハモデルを使って電子回路設計を行うと、実機動作と高く近似する回路を設計できます。

 

半導体の製造には膨大な費用を要します。そのため、回路設計の元となるこのデバイス・モデリング技術は厳密に高精度を求められ、非常に重要な技術となってきています。そして、モーデックは、このオンウエハ・モデリング(デバイス・モデリング)のリーディングカンパニーとして、幅広い業界の企業から指示を得ております。

PDKに含まれるトランジスタ・モデルの作製プロセスを一挙解説!!

オンボード・モデルとは?

 

次に、「オンボード・モデル」について解説をしていきます。複数のICチップを組み合わせて設計するシステム回路設計で用いられる各IC部品のSPICEモデルを、弊社では「オンボード・モデル」と呼んでいます。このモデルは、等価回路や数式を用いてIC動作を表現しています。最近では、PSpice以外にもLTspiceのような無償で使えるSPICEシミュレータが普及してきたこともあり、システム設計の方の間でもSPICEシミュレーションを実行する流れが進んできています。一方で、IC部品のモデルは各ICベンダーによって提供されているケースがほとんどで、モデルの入手性が問題となっていました。

 

弊社は、このIC部品のモデリングを『オンボード・モデル』事業として現在非常に力を入れております。全世界の10,000点以上(2021年3月現在)のIC部品モデルを作成し、さまざまなお客様へご提供してまいりました。どういった利用事例があるかといったような題目で、定期的にセミナーを開催しておりますので、ぜひ気軽にご参加いただければと思います。

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