第5話では、電子回路のフロントローディング化に使われるモデルの品種について考察します。
モデルの品種
モデル品種の考え方を理解できれば、実際の電子回路設計業務において、どのような種類のモデルを使うべきか判断できるようになるはずです。図5.1では、紙面の都合上、代表的なモデル品種に限定していますが、これ以外のモデルも存在いたします。
図5.1フロントローディング化に使われるモデルの品種
電子回路のフロントローディング化に際して、どのような種類のモデルを使うべきか判断できるように、各モデルの用途を簡潔に紹介いたします。
SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)モデル
1970年代の半導体IC設計検証から使われ始めた電子回路シミュレーション用途の業界標準モデルです。
有償のシミュレータとしては、
- PSpice
- HSPICE
- Spectre
- Eldo
- ADS
- Ansys Circuit
- SIMetrix
- SIMPLIS
- PSIM
- DSIM
無償のシミュレータとしては、
- LTspice
- QSPICE
- NGSPICE
- Qucs
などが存在します。
コラム第4話でも述べましたが、フロントローディングを進めるには、実際の開発規模にあった適切な回路シミュレータを選択し、そのシミュレータに合ったモデルを用意しなければなりません。
IBIS(Input/output Buffer Information Specification)モデル
回路プリント基板の配線やパターンレイアウト設計用途の業界標準モデルです。
1993年にインテルが主導してIBIS Open Forumが組織され、半導体プロセスの詳細情報を外部に漏らさず、かつIC送受間のシミュレーションに必要な入出力特性を記述できるモデルとして開発されました。
IEC(International Electrotechnical Commission)62433モデル
回路プリント基板におけるEMC性能の予測用途のために、国際電気標準会議で規格化されたICのノイズ源モデルです。
通常、モデルを作成するためには、実際のICを使ってノイズパフォーマンスを測定しなければならないので、真のフロントローディングには困難な部分があります。また、ノイズ源モデルは線形で表現されるため、負荷条件などを変えた様々な状態で測定し、モデル化しなければなりません。
Simulinkモデル
MathWorks社が提供する、モデルベースデザインのためのブロック線図環境で使われる制御システムや信号処理用途の業界標準モデルです。
モデルから、C/C++、CUDA、PLC、Verilog、VHDLといったコードを自動生成する機能があります。これにより、組み込みシステムへの実装が効率化され、手書きコードによるミスを削減できるようになりました。SimulinkのオプションであるSimscape Electricalを利用することで、電気回路や電力システムにも対応できるように更なる進化を遂げつつあります。
VHDL-AMS(Very highspeed integrated circuit Hardware Description Language-Analog Mixed Signal)モデル
既存のデジタルハードウェア記述言語であるVHDLを拡張し、アナログおよび混合信号(デジタルとアナログが混在する)システムのシミュレーション用途のIEEE標準(IEEE 1076.1)ハードウェア記述言語モデルです。
EV/HEVのパワートレイン、バッテリー管理システム(BMS)、センサーとアクチュエーターの統合システムなど、電気・機械・熱が複合的に作用するシステムの設計と検証に使われています。
開発用途によって適切なモデルを選択し上手く使いこなしていくことがフロントローディングに繋がります。電子回路設計という観点では、総合的にSPICEモデルが最適です。
第5話はここまで。次回は、SPICEモデルの粒度に的を絞って考察します。