Vol.1 回路シミュレーションの完全マップ

第6回 降圧レギュレータ(Buck Regulator)の原理と構成【最終回】

 

今回は、降圧レギュレータの仕組みについて解説をしていきたいと思います。

降圧レギュレータは、Buck Regulator(バック・レギュレータ)とも呼ばれ、出力電圧VOUT を入力電圧VIN よりも低い電圧に下げる目的で使用されるスイッチング電源回路になります。

降圧レギュレータには、下図のように同期型と非同期型の2種類が存在します。
GND側の素子が『スイッチ』、もしくは『ダイオード』(通常はツェナー・ダイオード)で構成されています。

ここでは主に、同期型を用いて解説をしていきたいと思います。

 

図1 同期型 / 非同期型降圧レギュレータ

 

降圧レギュレータ(Buck Regulator)の原理と構成

 

それでは、まず降圧レギュレータの基本的な仕組みを解説していきます。

同期型の降圧レギュレータの電源パスは、2つのスイッチとインダクタ、コンデンサで構成されます。厳密には、出力電圧をフィードバックして、2つのスイッチの動作を制御しますが、ここでは電源パスのみを解説しています。

入力電圧側のスイッチをハイサイド・スイッチ(High-side Switch、以下HS-SW)、スイッチング・ノードとGND間に配置されているスイッチをローサイド・スイッチ(Low-side Switch、以下LS-SW)と呼びます。

この降圧レギュレータは、スイッチング・レギュレータですので、HS-SWとLS-SWを交互にON / OFFさせることにより動作します。

出力電圧値は、HS-SWをON / OFFさせる時間の比率(Duty比)によって決定されます。
それゆえ、出力電圧を上げたい場合は、ON時間を長くすれば実現することができます。

 

Duty比 = Ton / T = VOUT / VIN

Ton: ON時間
T:スイッチング周期
VIN: 入力電圧
VOUT:出力電圧

 

 

ON時間における動作

 

はじめに、『HS-SWがON、LS-SWがOFF』している期間を見ていきます。

その間、スイッチング・ノードの電圧は入力電圧(VIN)と同電位に引き上げられます。

その結果、インダクタの両端はそれぞれVINとVOUTの電位差が生じて、電流が入力電源側から出力コンデンサへ流れ込みます。(充電)
このとき、出力電圧値は所望の電圧値よりも、若干高い電圧にレギュレーションされます。

 

図2 ON期間中の動作

 

OFF時間における動作

 

次に、『HS-SWがOFFして、LS-SWがON』している期間の動作について見ていきます。

今度は、スイッチング・ノードはGNDと同電位に引き下げられるため、インダクタの両端の電位はGNDとVOUTの電位差が生じた状態になっています。

このとき、出力コンデンサからGND方向に向かって、電荷が抜けていきます。(放電)
この動作によって、出力電圧VOUTは、所望の電圧値よりも若干低い電圧まで下がります。

図3 OFF期間中の動作

 

ON / OFF動作を繰り返す

 

こういった充放電の動作を繰り返すことで、出力電圧の値は小さな波を打って、期待した出力電圧値にレギュレーションされます。

このスイッチング動作のON時間の比率(Duty比)を制御することで、結果的に出力電圧値が平均化されて、降圧レギュレーションを実現しています。

 

 

【補足】降圧レギュレータの種類

 

冒頭でもお伝えしたように、降圧レギュレータには非同期型と同期型の2種類があります。
補足として、非同期型の降圧レギュレータについて少し解説します。

 

非同期型降圧レギュレータとは?

 

非同期型の降圧レギュレータとは、スイッチング・ノードとGND間の素子がダイオードで構成されているものです。

また、ここで用いられるダイオードは、効率低下を抑えるために、一般的なダイオード(0.6V-0.7V程度)よりもVFの低いツェナー・ダイオード(0.2V-0.3V程度)を用いるのが一般的です。

 

図4 非同期型降圧レギュレータ

 

この構成のメリットは、軽負荷時にインダクタ電流がマイナス方向へ流れないため、
出力容量にチャージされた電荷が無駄に抜けていかず、高効率を実現することができます。

ただし、軽負荷時のOFF期間の放電は、ダイオードに逆バイアスが掛かった状態での動作になるため、出力電圧のレギュレーション誤差は大きくなる傾向があります。

また、効率悪化を防ぐために、低VFのツェナー・ダイオードを一般的に用いますが、ツェナー・ダイオードは温度依存性が非常に高く、動作温度が大きい製品で用いる場合には、特に注意が必要になります。

 

近年では、同期型レギュレータにおいて、Pulse Skip Mode (PSM)やPulse Frequency Modulation (PFM)と呼ばれる機能が搭載されています。

回路の構成としては、ローサイド側の素子は、スイッチを用いているのですが、軽負荷を検出したときに非同期型の動作に切り替わるような設計になっています。それゆえ、これらのモードを搭載した同期型のレギュレータであれば、軽負荷動作でも高効率を確保できる上、外付けでツェナー・ダイオードも不要になりますので、近年では同期型が主流で使われているように思います。

 

まとめ

 

今回は、降圧レギュレータの基本動作と構成について解説をしてきました。

スイッチング・レギュレータとリニア・レギュレータの使い分け方などにつきましては、こちらの記事をご参考にしてください。

【電源回路技術】リニア・レギュレータとスイッチング・レギュレータ