Vol.6 モデルベース開発のメリットと電子回路設計のフロントローディング化

第10回 これまでの振返りとフロントローディング化を進めるための実施概要

第1話から9話までのコラムでは、著者の経験に基づいた「モデルベース開発のメリットと電子回路設計のフロントローディング化」について、以下の内容をご紹介してまいりました。

  1. Googleと半導体の関係
  2. モデルベース開発(MBD)の動向と自動車業界の具体例
  3. 電子回路設計におけるシミュレーション環境構築の課題と対策案
  4. モデルベース開発のメリットとその裏側に内在する注意点
  5. 電子回路設計のフロントローディング化に使われるモデルの品種
  6. フロントローディング化に使われるSPICEモデルの粒度
  7. 三相インバータにおける具体的なフロントローディングのニーズと課題
  8. 電子回路設計のフロントローディング化に成功したユーザー事例のご紹介
  9. 伝導ノイズのシミュレーション結果を実機に近づける実践的フロー

読者の皆様に有用な内容を盛り込んで執筆したつもりですが、ご不明な点やお問い合わせなどございましたら、info@modech.co.jpまでご連絡ください。メールでの回答が難しい場合には、ウェブ会議を通じてディスカッションできればと考えております。また、コラムのテーマに関連する無償ウェビナーも企業様ごとに開催可能なので、お声がけいただければ幸いです。

フロントローディング化を進めるための実施概要

信号・電源の品質向上

本コラムで紹介するフロントローディング化を進めるための実施概要を、図10.1にまとめてみました。この事例は、企業内のモデル整備として線形デバイスモデルライブラリから着手し、信号波形や伝送線路の品質および電源インピーダンスの特性向上を目指しました。

フロントローディング化を進めるための実施概要
図10.1 フロントローディング化を進めるための実施概要

エミッションノイズの解析・対策

次に、非線形デバイスモデルやパワー系デバイスモデルライブラリの整備を行い、エミッションノイズの解析や対策を実施しました。その際に、ハーネス、LISN、基板や筐体などのモデルも必要になります。

コモンモードノイズは、パワーデバイスのスイッチングから発生するノイズなどが浮遊容量を介して大地や筐体を通ってノイズ源に戻ってくるため、筐体や結合のモデル化によってシミュレーションに反映されます。コモンモードノイズにおけるノイズ電流の経路は同方向のため、電磁波が重なって強くなります。そのため放射ノイズの解析では、コモンモードノイズの発生メカニズムを模擬した3D形状を使った電磁界解析が有用です。

イミュニティノイズ解析・対策

その後、保護素子モデルを整備し、イミュニティノイズ解析や対策を行いました。

IC誤動作を再現するイミュニティモデルをフロントローディング化するためには、半導体メーカーの協力(機密情報含む)や評価ボードを使ったIC測定が必要となるため、難易度がアップしてしまいます。よって、ICのイミュニティモデルを開発・作成するよりも、IC誤動作しないような保護動作に関する解析を行った方が実践的です。

EMC・熱の統合解析

最後に、EMCと熱(熱設計、放熱対策、回路・熱の連成など)の統合解析を行いました。ノイズと熱には設計上のトレードオフが存在する部分があるため、ノイズと熱の統合的な最適設計を目指しました。ノイズのフロントローディング化用のモデルが揃っていれば、それらをベースに熱解析の熱源として取り扱うことができます。

図10.2に、制御検討時に熱の影響を時間軸で解析する概念図を示します。電子部品と熱を連成するメリットとしては主に、

  • 制御系における熱影響(半導体部品の特性変化など)の検討
  • ノイズと熱の相反性の検討
  • 製品品質の担保

の3点があります。このようなことを含めてノイズと熱の統合解析を行い、フロントローディングの有効性を示していきました。

図10.2 制御検討時に熱の影響を時間軸で解析する概念図
図10.2 制御検討時に熱の影響を時間軸で解析する概念図

あとがき

以上、10ヵ月に渡り、「モデルベース開発のメリットと電子回路設計のフロントローディング化」のコラムを掲載してまいりました。読者の皆様にとって、少しでも有用な部分があったことを願うばかりです。また、国内のものづくりの更なる発展を祈って、最後のご挨拶とさせていただきます。長い間お付き合いいただき、誠にありがとうございました。心より深く感謝申し上げます。

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