第5話のモデル品種に続き、第6話では電子回路のフロントローディング化に使われるSPICEモデルの粒度について考察します。
SPICEモデルの粒度と例
モデル粒度としては、実デバイスの基本的な動作を表現した簡易モデルと実デバイスの特性を高精度に表現した詳細モデルがあり、フロントローディングの用途や電子回路設計の目的によって使い分けることが一般的に行われます。例えば、回路規模が大きくシミュレーションに多大な時間がかかるような場合、設計を効率良く進めるために、簡易モデルを有効に使うことができます。
モデル粒度の例として、東芝デバイス&ストレージ社から公開されているMOSFET SPICEモデルグレードApplication Noteを使って説明します。本Application Noteでは、図6.1のように粒度をグレードと表現し、G0、G1、G2の3種類に分類しています。

図6.1 東芝デバイス&ストレージ社 MOSFET SPICEモデルグレード表
ここで、各モデルの特徴(図6.2参照)は以下のように記載されています。
G0:BSIM3 をベースとした標準的なデバイスモデルであり、計算速度が短くファンクションチェックに適しているモデルです。
G1:G0 モデルに対し、寄生容量の電圧依存特性の再現性を高め、より実測に近い高精度なスイッチングシミュレーションが可能なモデルです。
G2:G0 モデルに対し、ID-VDS カーブの高電流領域特性と寄生容量の電圧依存特性の再現性を高め、より実測に近い高精度なスイッチングシミュレーションが可能なモデルです。

図6.2 東芝デバイス&ストレージ社 グレードと特性カーブの再現性一覧
G0モデルとG2モデルの容量特性(図6.3参照)については、以下のように解説されています。
G0モデルはBSIM3 をベースに構成されているため、この急峻に下がる容量特性の非線形性を表現できず、CrssとCossのシミュレーションカーブはデータシートの特性カーブと大きく乖離しています。それに対し、G2モデルではRMS エラー2%以下で容量カーブを表現することができています。

図6.3 東芝デバイス&ストレージ社 G0、G2 モデルのシミュレーションとデータシートの容量特性カーブ(TPH5R60APL)
また、G0モデルとG2モデルのスイッチング特性(図6.4参照)については、以下のように解説されています。
G0モデルは、容量特性に関する非線形性表現が不十分で本来の容量値を表現できないため、急峻に変化する電流や電圧を抑制できず、その結果ドレイン・ソース間電圧(VDS)でリンギングが発生しています。それに対して、G2モデルでは、ドレイン電圧の上昇過程においても実際の容量値とほぼ同様の変化が実現できているため、実測波形と同様にVDS が定常状態に移行する過程を十分に表現できています。

図6.4 東芝デバイス&ストレージ社 抵抗負荷回路スイッチング波形のシミュレーションと実測比較(TPH5R60APL)
本コラムでは、モデル粒度の例として、東芝デバイス&ストレージ社のMOSFET SPICEモデルグレードを紹介しましたが、他の電子部品や半導体メーカーからも公開されているものがありますので、必要に応じてご活用ください。
第6話はここまで。