求む!高周波技術者

1896年のマルコーニによる通信実験から120年以上が経ち、電波の有用性について多くの方々が理解していると思いますが、電波がどのようなものか、何でできているのか、なぜ遠くまで届くのかを説明できる人は、少ないと思います。電波には色や味や音を出す特性もなく、科学実験の試薬や、電気回路のテスターで簡単に存在を確かめることもできません。

それでは、その不思議な電波について研究する人々や、社会ニーズが拡大している電波を利用する製品(携帯/スマホ/PC/etc.)を開発する技術者はどんどん増えているのだろうか?と言えば、電波を扱う技術者はむしろ減っているように思います。その理由は、技術者の養成と社会ニーズの不釣り合いです。

つい最近1970年代まで、電波は極めて限られた人々のものでした。関連する事業や間接的な仕事を除けば、世界中で一万人ぐらいの人々を対象とした存在でした。その後 DBS(衛星放送、日本ではBS/CS)やページャ(日本のポケベル)、初期の携帯電話(いわゆるガラケー)の開発のために一定の期間だけ企業内に高周波技術者が増えた時期がありますが、国内で1000人程の規模だったことや、その後に関連する国家的プロジェクト等が立案されなかったことから、20~25年周期と言われる技術者の世代交代の中で再び極めて特殊な分野(=参加者が少ない)に戻ってしまいました。広大な技術のサバンナが広がっていても、歩いているキリンは絶滅が危惧されているような状態です。

オリンピックやサッカーの世界大会など、国際的なイベントに関連して 5G(次世代携帯網)の名前を聞く機会が増えてきました。しかし、ミリ波(>30GHz)や M-mimo の新技術を実現しないといけない 5G 携帯開発状況は、コンソーシアムや技術的優位を勝ち取りたい各国の行政が大々的に広報する明るい側面とは裏腹に、開発を担う技術者が足りておりません。これらの開発について、どこにキー技術の開発を依頼するか、ブレークスルーをだれが実現するのか、今以て右往左往しているような状態で、予定(期待)された商用サービスイン時期も黄色信号が灯っています。

前述のように電波の世界は分かりにくく、まだコンピュータで自動開発できるほど一般化もされていませんが、基礎的な技術と工夫する気持ちがあれば、出来ること、すべきことは山のようにあり、かつ、敵すらいない無限の荒野が広がっています。より早く、より大量に、より便利なサービスの実現のために、電波利用装置の使う周波数は高くなる一方です。ミリ波の世界では戦うのは敵ではなく自分自身という冒険家のような世界が待っています。

本稿を読んで電波や高周波にご興味を持っていただけたならば、幸いです。弊社では、電波機器の設計や検討、他社の設計アセスメント、試作品の製造等を行っています。お声掛けお待ちしています。

株式会社モーデック 技術部
iNARTE認定EMCエンジニア
青木 生朗